« 心とは何か? … 唯識論(2) | トップページ | 心とは何か? … 唯識論(4) »

2005年7月 4日 (月)

心とは何か? … 唯識論(3)

(注: 以下の文章は、笹本戒浄著 「真実の自己」を抜粋、要約したものです。)

第4話  記憶とは何か?

記憶は普段、ある生理状態として大脳皮質に保存されている。この保存というのは、絵などが美術館に保存されているようなのとは状態が違う。美術館の絵なら、陳列されていても蔵の中にしまってあっても、絵であることに変わりはない。だが記憶は、思い出されたときは意識だが、思い出されていないときは大脳皮質の生理状態であり、意識ではない。

たとえば鉄琴にドレミのドの音を出す板があるように、大脳にもドを記憶する細胞がある。大脳皮質の細胞は刻々と新陳代謝、物質代謝して別のものに替わっているが、前のものと姿、形が似ているので、生理状態としての記憶も似ている。これはちょうど、2つの鉄琴のドの板が別々の物質であるにもかかわらず、大きさ、形、材質が似ているために同じドの音を出すようなものである。

けれども物質が入れ替わるのだから、似てはいても同じではない。そのため、記憶は時がたてば薄らぐということが起こる。そして、視覚中枢を右の方も左の方も一定量壊すと、目が見えなくなるだけでなく、目によって得られた記憶知識がすべて失われる。

さて、ここで問題を転じて、こちらをじっと見ていただきたい。(注: 「真実の自己」は笹本上人の講話を筆記して本にしたもの。「こちらを見て」というのはその場の聴衆に呼びかけた言葉。)

あなた方は今、笹本の顔や姿とそのうしろの黒板をごらんになっている。目を離さないで、じっと見ていただきたい。この顔や姿や黒板があなたの心だと言えば、どうお思いになるだろうか? 「何を馬鹿なことを。私の心は私の脳の中にある。あなたの顔や黒板は、私の外にあり、物質ではないか。外にある物質が私の心であってたまるものか」とお思いになるだろうか?

では夢のことを思い出していただきたい。あなたは今この場の情景をじっと見ていると、後日それを夢に見ることがあるかもしれない。その夢の中では、笹本の顔や黒板はあなたの外に物質として見えているにちがいない。けれども夢は心である。だから、自分の外に見えているという理由だけでは、それが心でないとは言えない。

ではもう少しつきつめて考えてみよう。夢は記憶によって作られる。ときには現実で見たこともない物が夢に現れることもあるが、その場合も構成材料は記憶である。記憶は心である。夢の中の笹本や黒板も、あなたの記憶であり心である。このことにご異存はないだろう。

では、その記憶はいつできるのだろうか? どこでどうやってできるのだろうか? あなた方が、生まれながらに笹本の顔の記憶を持っておられるはずはない。今この顔をじっとごらんになっている、この瞬間ごとに、後日の夢となるべき記憶ができつつあるのだ。これが記憶の真っ最初なのだ。さあ、その記憶は、今どこにできている? 

多くの人は、記憶というものは頭の中に浮かぶ精神的写真だと思いこんでいる。では今、何かを思い出して、そのありさまをよく観察してみていただきたい。頭痛の記憶なら頭の中に浮かぶだろうが、景色や人やできごとの記憶は、自分の外に現実と同じ大きさや広がりをもって現れているはずだ。頭の中に縮小サイズで浮かんだりはしない。

さあ、こちらを見ていただきたい。笹本の顔は、あなたの前の空間をへだててこちらに見えている。もしこの笹本の他に、どこかそちらの方に、記憶として残るべき笹本があるのなら、「夢で見る笹本は心だが、現実の笹本は心ではない」と言えるだろう。だが実際は、笹本はここに一つあるだけだ。

したがって、今あなたが見ておられる笹本は、記憶の真っ最初の心であると言わねばならない。あなたが生まれて今まで見てきた山川草木森羅万象は、それぞれの記憶の真っ最初であり、その時々のあなたの心だったのだと言わねばならない。

(・・・心とは何か(4) に続く )


【関連記事】
心とは何か 唯識論 (1)
心とは何か 唯識論 (2)
心とは何か 唯識論 (4)
心とは何か 唯識論 (5)
心とは何か 唯識論 (6)
心とは何か 唯識論 (7)
心とは何か 唯識論 (8)


« 心とは何か? … 唯識論(2) | トップページ | 心とは何か? … 唯識論(4) »

コメント

心はどこから生まれるのか の本にかきしるしました。

投稿: 永井哲志 | 2017年8月14日 (月) 午後 04時18分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 心とは何か? … 唯識論(3):

» retrieve [depro provera 3008]
concerta flexeril interaction flomax buy phentermine [続きを読む]

受信: 2006年8月31日 (木) 午前 02時47分

« 心とは何か? … 唯識論(2) | トップページ | 心とは何か? … 唯識論(4) »