« 心とは何か? … 唯識論(5) | トップページ | 心とは何か? … 唯識論(7) »

2005年7月27日 (水)

心とは何か? … 唯識論(6)

(以下の記事は、笹本戒浄著 「真実の自己」を抜粋、要約したものです。)

第7話  境は三昧中の心

精神物理学は、大脳と精神の関係を研究する学問である。私は学生の頃、大澤謙之博士から精神物理学の講義を受けた。大澤博士は「外国の催眠術の実験報告を読んで、自分も同じ実験をしてみた結果、事実だということが確かめられた」と言って、われわれ学生にこんな話をしてくださった。

階段教室にすわっている学生の中から2人を前に呼び出し、黒板の前に立たせた。(以下、この2人を学生A、Bと呼ぶ。)そして学生Aに催眠術をかけ、「君の目の前にB君がいるが、見えるか?」とたずねると、学生Aは「見える」と答えた。

つぎに学生Aに、「B君は今、教室を出て行くところだ。さあ、もう出て行ってしまった」と暗示を与えた。そして「今、B君はここにいるか?」とたずねると、「いない。出て行った」と言う。BがAに話しかけると、Aにはそれが聞こえず、何の反応も示さない。

教授はAの催眠を解いて、ふつうの意識状態にもどした。だが、Bが出て行ったと思っているAには、依然としてBの姿が見えない。手に持っている帽子をBが奪うと、Aは「何か恐ろしい力が帽子を奪った」と驚いている。Bがその帽子を頭にかぶると、Aは「帽子が宙に浮いている」とまた驚く。その様子を見て、ほかの学生たちはゲラゲラ笑い、Aもつられて笑う。だが、何がおかしいのか、Aにはわかっていない。ただみんなが笑うのに共鳴して笑っているだけだ。

福来友吉先生の実験報告には、さらにこの続きがある。Bがその帽子を背中にまわして持つと、Aにはその帽子が見えるのだ。Bの体が帽子の前にあることが、少しも邪魔になっていない。Aにとって、Bは完全な透明人間になっていた。

さて、ここで質問である。ものが見えたり聞こえたりするためには、視覚や聴覚という神経系統(=根)と、光波や音波という刺激(=境)と、そちらに注意を向けること(=識)の3つを要することは前に話した。では、この学生Aには、根・境・識のどれが欠けているのだろうか?

もし根か識に異常があるのなら、帽子やまわりの学生たちの姿も見えず、学生たちの笑い声も聞こえないはずだ。だから、Aの根と識には異常はないことがわかる。Aに欠けているのは、学生Bの境である。Aは催眠術にかかった三昧の心で、学生Bが教室から出て行くのを見た。そのため、催眠術を解かれても、学生Bという境はできなくなったのだ。

したがって、「境とは、三昧中の観念である」ということになる。

ただし、ここで言っておくが、境は1つのものではない。刺激でも、空気の振動、エーテルの振動、物理的なもの、化学的なものというように色々あるし、振動でも振動数がそれぞれ別々である。たとえば音の振動数は1秒間に8回~5万回、色の振動数は450兆回~750兆回というように、音と色とでは振動数が全くちがうし、色であっても赤は450兆回、紫は750兆回というように、色それぞれに振動数がちがう。境と一口に言っても、色境、声境、香境、味境、触境はそれぞれ別々である。

学生Bには姿、形があり(=色境)、声や音があり(=声境)、においがあり(=香境)、なめれば味もあり(=味境)、さわればスベスベザラザラの感じがあり(=触境)、体を押せば抵抗感があるだろう(=触境)。その中で、色境や声境は催眠術のような浅い三昧でも消してしまえるが、触境の「抵抗」は催眠術ぐらいでは消せない。そのため、学生Aは透明人間Bの方にまっすぐ歩いて行くと、Bにつまづくことになる。

けれども、深い出世間の三昧に入れば、抵抗も消すことができる。(たとえば、壁を通り抜けることもできる。)

聴講者の質問: 「学生Aには学生Bが見えていなくても、学生Bはそこにいるのだから、学生Bの境はそこにあるのではありませんか?」

笹本上人の答: 「私どもは普通、境は唯一のものだと考えますが、仏教では境は人々別々のものだと言います。ゆえに、Aには見えなくても他人には見えております」

(・・・心とは何か(7) に続く )


【関連記事】
心とは何か 唯識論 (1)
心とは何か 唯識論 (2)
心とは何か 唯識論 (3)
心とは何か 唯識論 (4)
心とは何か 唯識論 (5)
心とは何か 唯識論 (7)
心とは何か 唯識論 (8)


« 心とは何か? … 唯識論(5) | トップページ | 心とは何か? … 唯識論(7) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/40564/5169412

この記事へのトラックバック一覧です: 心とは何か? … 唯識論(6):

« 心とは何か? … 唯識論(5) | トップページ | 心とは何か? … 唯識論(7) »